この記事について
IPv6について、簡単な仕様と現状の課題について、技術者出ない方向けにまとめてみました。より専門的な技術記事を読むための足掛かりにしていただければ幸いです。
なお、そもそもIPアドレスって何?というかたは、私の方で以下の記事をまとめましたのでよろしければこちらもご覧ください。
IPv6とは
IPv6とは、IPアドレスの規格の一つです。従来のIPアドレス(IPv4)は「192.168.56.1」という形式だったのに対して、IPv6は「fe80::8ce7:daf1:b5c4:738d」という形で表現されます。
どちらもネットワーク上の住所を表すものであることには変わりありませんが、割当可能な範囲が拡大されているなど、より便利になるように拡張修正されているという特性があります。
IPv6導入が推進されている背景
IPv6の必要性が出た問題として従来から使われていたIPv4の枯渇問題があります。
IPv4で表現しうる値は、約43億個しかありませんでした。インターネットが普及した今日の世界において、世界中様々な機器が接続してしまう43億個のIPはあっという間になくなってしまいます。
IPv4だけでも、ネットワーク切り分けによりプライベートIP、グローバルIPという概念を生み出してなんとか対応しているのが現状ですが、それでも限界があります。より自由にIPを割り当てできることが望まれています。それ故にIPv6の移行が強く求められています。
IPv6のアドレス体系
割り当てできる数の範囲
IPv4がコンピュータ上の大きさの単位でいうと32bitであったのに対し、IPv6は128bitあります。約43億個しか表現できなかったIPv4に対して、IPv6は約340澗(3.4 × 10の38乗)とほぼ無限にあります。IPアドレス枯渇の心配がほぼありません。
記載の仕組み
IPv4は0-9の10進数表記で3桁(8bit)ごとに.で区切る形式でした。一方IPv6は16進数(0-9とA-Fで数字を表す仕組み)で、4桁(16bit)ごとに:で表す仕組みとなっております。また、0で始まるケースは0を省略できるなど略式記載も可能になっています。
具体的にはこんな記載があります。
記載例
- ::1
- 2001:db8:20:3:1000:100:20:3
- fe80::2d76:49cd:7eed:31e4
- 2001:db8::9abc
アドレス付与の仕組み
従来のIPv4アドレスは、ルーターのDHCPサーバであったり、フレッツ光などのインターネットプロバイダにIPアドレスを付与してもらう仕組みでした。しかしIPv6はMACアドレスというPCなどが必ず持っている端末識別子をベースに作成することを想定しています。(※もっともここは後述のプライバシーや逆引き管理の問題で現実的な実装方針は議論があります。)この結果、IPv4のときは自宅回線と、出先のフリーWifiで接続したときとではIPアドレスが異なりましたが、変更なく一意で利用できるようになる期待が想定されています。
IPv4投射アドレス
IPv6はまだまだ普及が進んでいないだけでなく、完全普及には課題のある規格です。それゆえにIPv4との互換をさせる取り組みがおこなわれています。互換をさせる取り組みの一つとして、IPv4の表現をIPv6で表現するIPv4投射アドレスが存在します。
具体例を示しますと「::ffff:192.168.56.1」という表現をします。最新のソフトウェアだと、IPアドレスをとりあえず表示しようとするとこの表記でいったん表記されるものも多いです。
ブラウザでURLとして入力するには
ある程度コンピュータに慣れている方なら、ブラウザにドメインではなく「http://127.0.0.1」というようなIPアドレスを直接入力してウェブページにアクセスしたことはあるのではないでしょうか。IPv6の場合もこの利用は可能です。ただし「http://[ fe80::8ce7:daf1:b5c4:738d]/」というように[]で囲って入力する必要があります。
IPv6の課題
最後にIPv6の普及に関して現状の課題をご紹介します。
実装上の課題
今日ミドルウェア、サーバ、OS、端末レベルではほとんどがIPv6に対応しています。しかしながら、2020年時点で世界で30%程度しか普及していないといわれています。これはなぜでしょうか。
一番の問題は、従来回線の対応です。従来回線はまだまだIPv4しか対応していないものが多く、大規模な工事が必要です。また、通信元から通信先まで、すべての通信規格でIPv6の対応がされている必要があります。
少しずつ普及はされており、並行期間という位置づけですが、まだまだIPv6の方を中心に利用という状況にはいたっていないのが現実です。
法律規制上の課題
IPv6になり、IPv4になかった課題が法規制面でもでております。それについていくつかご紹介します。
個人情報保護法・プライバシー上の課題
これまでのプライベートIP、グローバルIPという位置づけ、アクセスプロバイダごとにIPアドレスを端末に付与していたという仕組みから、IPアドレスが個人情報保護法・プライバシー上問題になるケースは稀でした。具体的な例で説明すると、プロバイダ責任制限法などを通じた照会、サービス運営者がIPアドレスと他個人情報を紐づけた形での保存などをしていない限り問題となることはありませんでした。
しかしながら、IPv6は前述のとおり、MACアドレスをベースに作られているため、個人の特定、識別が容易になります。その結果、IPアドレスを利用した個人識別も容易になってしまいます。従来個人情報保護法上の個人情報にあたるかどうかはケースバイケースであったIPアドレスが個人情報保護法上の個人情報に当たることがほぼ確実になり、プライバシー上の保護の要請がますます強くなることを意味します。
逆引き・本人特定の課題
一方で、何も個人特定としての手がかりを持ち合わせない単純なIPv6アドレスの場合、発信者を特定するのが困難になる懸念も生まれています。
従来のIPv4は基本的にアクセスプロバイダが各端末に付与していたため、プロバイダ責任制限法などで開示があった際にIPアドレスを付与元のアクセスプロバイダに照会すれば特定は可能でした。
しかしながら、IPv6はプロバイダを介したIP付与が行われない可能性もあるため、だれが当該IPを管理するのかという問題が発生します。
この辺りについては、個人の特定ができるようにIPアドレスの付与は必ずプロバイダのDHCPサーバを通して付与されるようになどの規格の議論が引き続き続いています。前述のように、プライバシー配慮の問題もあるため、簡単には決まるものではなく、完全にIPv6一本での運用はまだまだ難しそうです。
終わりに
簡単ですが、以上がIPv6の私のまとめでした。IPv6についてはまだまだ奥が深く、より専門的な実装方法の課題についてネットワークエンジニアが様々な記事を書いていますので興味がある方はぜひ読んでみてください。
この記事が少しでも、IPv6理解への足掛かりになれば幸いです。
Photo by Markus Spiske on Unsplash